事業譲渡は統計数字だけ見ても実感が湧きません。実際に運送会社を譲渡した3人の経営者に、金額・タイミング・譲渡後の本音を聞きました。
CHAPTER 01Aさん(62歳・年商4億円の地場運送)
関東で35年続く中規模運送会社を経営していたAさん。息子は別の道へ進み、後継者不在のまま60歳を迎えました。
譲渡の決断
「60歳でいったんリタイアを意識しはじめて、実際に動き出したのは61歳。取引先が大手で、自分が倒れたら迷惑をかけると思った」
金額と条件
- 譲渡価格:約1.8億円(株式譲渡)
- 成約までの期間:10ヶ月
- 譲渡後の処遇:1年間顧問として残留(月額50万円)
譲渡後の本音
「手取りで1.5億円残ったのは想定より多かった。ただ、譲渡3ヶ月後に長年の番頭格だった役員が退職してしまったのは心残り。PMIの段階で人間関係のケアがもう少し必要だった」
CHAPTER 02Bさん(55歳・年商1.2億円の軽貨物中心)
関西で軽貨物メインの事業を12年経営。健康上の理由で早期引退を決断しました。
譲渡の決断
「心臓に持病が出て、このまま続けるのは社員にも迷惑だと感じた。小さい会社だから売れるとは思っていなかったが、スモールM&Aのプラットフォームで買い手が見つかった」
金額と条件
- 譲渡価格:約3,500万円(事業譲渡)
- 成約までの期間:7ヶ月
- 譲渡後の処遇:即時リタイア
譲渡後の本音
「小規模でも買い手が見つかる時代になったと実感した。ただ、事業譲渡だったので許可を買い手が再取得する必要があり、最終決済まで時間がかかった。株式譲渡にしておけば良かったかもしれない」
CHAPTER 03Cさん(48歳・年商2.8億円の宅配中心)
首都圏の宅配運送会社を10年経営していたCさん。次の事業にチャレンジするためM&Aを選択しました。
譲渡の決断
「体力的にも経営者として一番動ける時期に、第二の挑戦をしたかった。ドライバー募集プラットフォームの立ち上げに興味があり、運送会社は売却することに決めた」
金額と条件
- 譲渡価格:約1.1億円(株式譲渡)
- 成約までの期間:9ヶ月
- 譲渡後の処遇:半年で完全離脱、現在は新事業を立ち上げ中
譲渡後の本音
「40代で売れたのは良かった。1億円あれば次の挑戦の種銭になる。ただ、譲渡後の競業避止義務が『関東圏5年』と広く、新事業の地域展開に制約が出た。契約書レビューをもっと慎重にすべきだった」
CHAPTER 043人に共通する「早めにやっておけばよかった」
譲渡価格や満足度は違えど、3人とも「もう少し早くやっておけば」と話したポイントがあります。
- 帳簿整理:個人経費と会社経費の線引きを数年前から徹底すべきだった
- 社員への事前説明:成約後に伝えるのが一般的だが、キーパーソンには早めの情報共有が必要
- 契約書の熟読:表明保証・競業避止・キーマン条項は特に念入りに
- 税理士・弁護士との連携:仲介会社任せにせず、自分の顧問と並走する
それぞれが次にやっていること
Aさん:顧問として業界に関わり続ける
若手経営者向けのアドバイザリー業務を始めた。「現場感覚を持ったアドバイザーは少ないから、需要はある」と話す。
Bさん:療養と家族との時間
健康を取り戻すため、1年間は仕事から離れる生活。売却資金で住宅ローンを完済し、精神的にも落ち着いた。
Cさん:新規事業の立ち上げ
ドライバーマッチングサービスを起業。M&A経験が次の事業設計に活きていると語る。「最初から売却も視野に入れた事業計画を立てられるようになった」
CHAPTER 06リアルな数字でわかること
3人のケースから見える、中小運送会社M&Aのリアル。
- 年商1〜5億円の規模で 3,000万円〜2億円 の譲渡価格レンジ
- 成約までの期間は 7〜10ヶ月
- 手取りは譲渡価格の 70〜85% 程度
- 譲渡後の社長の関与期間は 0〜1年
「売れるかどうか不安」と思う前に、まずは自社の概算査定から始めるのが現実的です。
FINALまとめ
譲渡の判断は、金額以上に「その後の人生をどう設計するか」で決まります。3人に共通するのは、譲渡が「終わり」ではなく「次の始まり」になっていること。自分の会社を譲る日のことを少しずつ考え始めることが、経営者としての余裕を生みます。